ドイツの野菜

 新鮮な野菜の多くは、無機塩類やビタミン類、食物繊維を豊富に含み、食生活の上で欠かせない存在です。
 ヨーロッパの人々は、肉料理の付け合わせとして野菜を必ずふんだんに取ります。ドイツでもソーセージのお供、ザウアー・クラウト(Sauerkraut)は有名ですね。また、当然のことながら、野菜は前菜やスープ、煮込み料理など、さまざまに用いられます。
 ドイツ人の食卓といえばジャガイモ料理と肉が中心と思われがちですが、野菜のレシピも非常に豊富です。今月からドイツの野菜事情をご案内したいと思います。今回は野菜全般をご紹介し、次回は秋冬野菜の代表格、キャベツ類を中心にご紹介します。なお、ドイツに春の訪れを知らせるアスパラガスについては、既にご紹介していますので、こちらをご覧下さい。
 ドイツ語で野菜のことを総称してゲミューゼ(Gemüse)と言います。野菜は一般に、水分の多い草本性の植物で、食用として栽培されているものを指しますが、可食部(食べる部位)によって、次のように分けられます。

・葉菜類=葉を食べる野菜(Blattgemüse, Blattsalate)
・果菜類=実を食べる野菜(Fruchtgemüse)
・茎菜類=茎を食べる野菜(Stängelgemüse)
・根菜類=根を食べる野菜(Knollen- und Wurzelgemüse)
・ネギ類(Speisezwiebeln)
・キノコ(Kulturpilze)
・その他の野菜(ゲミューゼ・スペツィアリテーテン)(Gemüsespezialitäten)

 下の図は、ドイツで収穫される主な野菜について、その名称、写真、そして収穫時期を表わしたものです。葉菜だけを見ても、ほうれん草(Blattspinat)、キャベツ(Weisskohl)、レタス(Eissalat)、サニーレタス(Eichblatt Salat)など、日本でもお馴染みの野菜だけでなく、ロロ・ロッサ・サラダ(Lollo Rossa Salat)、バタヴィア・サラダ(Batavia Salat)など、聞きなれないものも数多く登場します。因みに、葉菜はブラット・ゲミューゼ(Blattgemüse)と呼ぶ他、サラダに使う葉物野菜を総称するブラット・ザラーテ(Blattsalate)という別名の分類があるほど、サラダ用の野菜が豊富に揃っています。

◆葉菜類(Blattgemüse, Blattsalate)

 新鮮で歯ざわりのよい葉菜類は、サラダとして、四季を通じてさまざまな変化をつけて楽しむことができます。サラダはビタミンとミネラルを豊富に含み、低カロリーで、毎日の食卓に欠かせません。サラダのさわやかさを特徴付けているのは、有機酸と苦味成分です。
 サラダ用の葉菜類は植物学的に2種類に分けられます。まず、レタスグループは、茎を切断すると乳汁が出るもので、苦味成分が少なく、食べやすい柔らかな葉野菜です。レタス(lettuce=英語)というのは元々、ラテン語の乳(lac)を語源としていますが、ドイツ語ではコプフザラート(Kopfsalat)と言います。ドイツ語でKopf(コプフ)は頭、結球という意味があり、Salat(ザラート)はサラダ用の葉物野菜のことです。これは日本の「サラダ菜」に似た野菜で、ドイツでレタスと言えば、このコプフ・ザラートを指します。一方、日本で一般にレタスと呼ばれている固く結球した薄緑の野菜は元々アメリカ産で、ドイツ語ではアイスザラート(Eissalat)と言います。カリフォルニアから氷を詰めて輸送されてきたことが、その名の由来となったそうです。
 もうひとつがチコリグループ。茎から乳汁が出ず、苦みがあり、ビタミン、ミネラルの含有率がより多い、チコリ、エンダイブ、ラディッキオなどのサラダ用野菜がこのグループに含まれます。ラディッキオは、ほろ苦い紫色の野菜でサラダの彩りにもなります。

◆果菜類(Fruchtgemüse)

 果菜はひとくくりにして述べるのが難しいグループです。さまざまな種類が含まれるからです。このグループには、ウリ科(キュウリ、ズッキーニ)、ナス科(ピーマン、パプリカ、トマト)、マメ科(インゲン、エンドウマメ)およびイネ科(トウモロコシ)があります。栄養生理学的かつ調理学的に分類するとより細かく分かれます。
 ここではパプリカ(Paprika)をご紹介しましょう。パプリカは肉厚で青臭さや苦味が少なく、甘味が多いので、サラダはもちろん、炒め物や煮物など、幅広い料理の彩りに使われます。
 緑、赤、オレンジ、黄色、白、黒に近い緑色など鮮やかなパプリカの色は収穫時の目安と味覚を知らせるものです。緑色はまだ熟し方が足りない状態で、ほのかに苦味があり、皮は固めで歯ごたえがあります。赤く熟すと甘みが出て、フルーティな味わいです。黄色とオレンジは赤色のパプリカに似て、やはりマイルドな甘みのある味です。このほか、最近では黒色も見られるようになりました。料理に新しい彩りを添
えてくれるでしょう。
 パプリカの形状は丸みのあるもの、四角ばったもの、長く先端がトウガラシのように尖ったものなど実にさまざまです。中は空洞ですが隔壁で分けられ、白く平たい種子が入っています。この種にはカプサンチンという刺激成分が含まれているので、調理前には必ず取り除きます。
 緑や赤のパプリカは、他のどの野菜よりもビタミンCを豊富に含んでおり、非常にカロリーが低いのが特徴です(緑のパプリカの場合、100 g 当たり19 kcal 、赤色は 33 kcal )。 さらに、赤、緑とも葉酸の含有量が多く、緑色のパプリカは特にベータカロチン、ビタミンAおよびビタミンEを、赤パプリカはビタミンB6を含んでいます。パプリカの色素はカロチノイドとフラボノイドです。

◆茎菜類(Stängelgemüse)

 ドイツの茎菜類野菜としての代表格、ホワイト・アスパラガス(Spargel)は地中で育てられますが、こ
れは根ではなくれっきとした茎です(詳しくはこちら)。他に、茎菜類のグループにはルバーブ
(Rhabarber)、フェンネル(Gemüsefenchel)、セロリ(Stangensellerie)などがあります。
 ルバーブ(Rhabarber)は果物と相性の良い野菜で、お菓子にも使われるため、果物に間違えられることがありますが、茎菜類の野菜の1つです。フェンネルは独特な香りがあるため、好き好きがありますが、栄養学的にはオレンジと同等のビタミンCを含み、βカロチンと葉酸の含有量も高く、さらにビタミンB1、鉄分、マグネシウム、カリウムも含まれ、カロリーは低いという、非常にヘルシーな野菜です。生でサラダに、あるいは肉や魚とともに煮込んでいただきます。チーズとも良い相性です。
 セロリもまた、強い独特な香りが特徴的な野菜です。種類により緑、白、黄色のものがあります。黄セロリは緑のセロリよりマイルドな味わいです。生のままディップを添えれば、簡単な前菜になります。セロリの緑色の葉は、パセリのようにみじん切りにして料理の上に散らしていただくことができます。香りが強いですから、ごく少量でいいでしょう。

◆根菜類(Knollen- und Wurzelgemüse)

 根菜類(Knollen- und Wurzelgemüse)は、ドイツでも最も好まれる種類の野菜です。栄養に富み、さまざまな料理に使用できるからです。その筆頭がニンジン。その美味しさと歯ごたえは大地からの大いなる恵みです。他に球根セロリ(セロリアックとも言います)(Knollensellerie)、ラディッシュ(Radieschen)、ダイコン(Rettich)、そしてロシア風ボルシチでお馴染みのビーツ(Rote Bete)があります。
 なお、ドイツではジャガイモは主食に近いため、分類上、野菜とは別個に扱われます。ジャガイモについては、既に3回に分けてご紹介しておりますので、こちらをご覧下さい。
ドイツ人がサラダで好んで食べるニンジン(Möhren=メーレン)を少し詳しく見てみましょう。ニンジンは四季を通じて入手できる野菜です。
 6月頃から収穫される春ニンジンはブントメーレン(Bundmöhren)と呼ばれ、葉付きで売られます。秋ニンジンは葉を取って洗った状態で売られるため、ヴァッシュメーレン(洗ったニンジン)(Waschmöhren)と呼ばれます。早取りの新鮮なブントメーレン(Bundmöhren)は甘みが強く、長期保存がきかないので数日のうちに食べきらなければなりません。サラダでいただくのが最も美味です。夏、秋、冬のニンジンはより太くなり固くしまってきますから、束ねられるか、箱詰めで出荷されます。ニンジンは箱から出したらすぐビニール袋に入れられ、空気に触れない状態で保管されます。
 ニンジンは油脂とともに摂取すると体内でビタミンAに変換されるベータカロチンを含みます。したがって、生食する場合でもオイルやクリームなどの油脂とともにいただくのが良いでしょう。さらに、葉酸とミネラル、鉄分、カリウムも含み、繊維質も豊富です。
 キッチンでの利用範囲は広く、生でも煮ても、ジュースでも、ピクルスのような保存食品でも良しという優れモノです。煮るときのコツをひとつ。長時間煮込むと香りと栄養分が損なわれますので、できるだけ短時間で静かに煮るのが理想です。砂糖をひとつまみ加えると、ニンジン独特の甘みがさらに引き立ちます。

◆ネギ類(Speisezwiebeln)

 ネギ類は、どのお宅でもキッチンで利用度ナンバーワンの野菜でしょう。なかでも、タマネギは1年中マーケットに出回っている、本当に便利な野菜です。タマネギはユリ科に属し、古代から栽培されていたことが知られています。古代エジプトでは、ピラミッド建設に従事する労働者が滋養をつけるために摂取していました。タマネギ特有の刺激臭は硫黄化合物を含有する硫化アリルによるもので、これが涙の原因になります。他には、根元にラッキョウのような球根をもつ、フリューリンク・ツヴィーベルン(Frühlingszwiebeln)と長さ40cm 程のラウフ・ツヴィーベルン(Lauchzwiebeln)があり
ます。

◆キノコ(Kulturpilze)

 ビタミンの宝庫であるキノコは美食家の最良の友であり、特に栽培キノコ(Kulturspeisepilze)は1年中、良質のものを入手できるので、キッチンの心強い味方です。栄養生理学的にはタンパク質、ミネラルおよびビタミンを多く含有しているにもかかわらず、ほとんどカロリーがないという優等生です。新鮮なキノコの良い香りがキッチンに広がると、食欲をそそうものです。種類も豊富で、焼いたり、揚げたり、詰め物をしたり、スープ、グラタン、煮込み、肉料理・魚料理、オムレツの付け合わせとして、その味覚を幅広く楽しむことができます。
 食用キノコは一般に、キノコ栽培工場において、特別な有機栽培容器の中で栽培されます。キノコ培養のためには、菌糸体(Myzel)と呼ばれる糸状菌の栄養体を栽培容器に満たします。キノコはほとんど目に見えない、空気中を漂う胞子によって増殖します。胞子が着床し、水を吸収し、栽培床に発芽し、それが成長するとキノコになるのです。
 キノコは現代に要求されるヘルシーライフにぴったりの食物ですから、日々の献立に欠かせません。例えばシャンピニオン(マッシュルーム)はタンパク質とミネラル分が豊富でありながら、ほとんどエネルギーがなく(100g中16kcal)、ビタミンD、B2、ナイアシン、パントテン酸を含んでいます。キノコはとても柔らかいので、手で押したりするとすぐ痕が付いてしまいます。そのため、ていねいに扱い、あまりいじらないようにします。
 市場に出回るキノコの種類は豊富で、年々増えています。ドイツでは最近、日本のシイタケ(Shiitake-Pilze)、シメジ(Shimeji)、マイタケ(Maitake)も好まれています。

◆ゲミューゼ・スペツィアリテーテン(Gemüsespezialitäten)

 サラダや付合わせ、彩りとして古くから親しまれているハーブ野菜や、外国から入ってきた野菜で近年親しまれるようになったものを、ここでは特別な野菜(ゲミューゼ・スペツィアリテーテン)として、まとめました。このグループの野菜はいずれも料理を引き立たせるだけでなく、ビタミン、ミネラルを豊富に含んでいるので、人気が高まっています。
 伝統組としては、ほうれん草に似た外見で、カリウム、マグネシウム、鉄分、ビタミンA、Cを豊富に含むマンゴルト(Mangold、フダンソウとも呼ばれます)、ホースラディッシュ(Meerrettich)、タンポポの葉(Löwenzahn)、日本のカブに似た、テルトウア・リュープヒェン(Teltower Rübchen)があげられます。テルトウア・リュープヒェンは白く丸い形状で、ラディッシュよりも少し大きいぐらいの大きさで、歯ざわりがよく、日本のカブによく似ています。この野菜は古くはベルリン地方の特産物でした。現在は他の地域でも栽培されています。形が小さいほど味わい深く、マイルドで少し甘みがあります。サラダや煮込みに用います。
 西洋ワサビとも呼ばれるホースラディッシュ(Meerrettich)を少しご紹介しましょう。アブラナ科に属し、左の写真のように、かなり太く、長さは60 cm 程度です。無骨な形状のホースラディッシュですが、皮をむくと中は真っ白です。摩り下ろして使用し、下ろしたてはワサビのようにピリッとした辛みと香りがあります。ソース、サラダ、肉料理や魚料理に用いられ、特にローストビーフには欠かせません。ビタミンCとカリウムを豊富に含んでいます。
 この他、新顔としては、中国野菜のパクチョイ(Pak-Choy)、イタリア野菜で最近人気のルッコラ(Rucola)などがあげられます。ルッコラはイタリア語で、ドイツ語ではラウケ(Rauke)ですが、多くのスーパーではRucolaと表示して売られています。ルッコラに、トマト、モッツアレラチーズ、赤タマネギなどを合わせたサラダなどのメニューが人気です。