ブリュー・ヴルスト(Brühwurst)

ブリューヴルスト(Brühwurst)のブリューは「茹でる」という意味で、ブリューヴルストは挽肉生地をケーシングに充填した後、「茹でる」、あるいは「蒸す」、または「焼く」(バッケン=Backen、あるいはブラーテン=Braten)という加熱処理をして出来上がるソーセージを指します。即ち、ブリューの「茹でる」は、食べる段階での「茹でる」を意味するものではなく、あくまで製造段階での「茹でる」を指しています。

前回登場のローヴルスト(非加熱ソーセージ)と同じように、生の牛肉あるいは豚肉を脂身と混ぜ合わせ挽肉にして作りますが、仔牛肉や七面鳥の肉を使って作るヴルストもあります。肉を挽く際に、肉の温度を下げ、全体が均質に混ざるように、かき氷状に砕いた氷または冷水を一緒に加えるのが特徴です。そしてこの挽肉に、それぞれのヴルストのレシピに適したスパイスや塩を加えて肉生地にし、これを天然ケーシングあるいは人工ケーシングに詰め、加熱処理して(多くの場合茹でて)完成です。ヴルストによっては加熱前あるいは加熱後にくん煙をかけるものもあります。こうして加熱をすることで、ある程度の硬さを持ち、スライスしやすいヴルストとなります。

最初にお話しましたように、ドイツには推定1,750種類のヴルストがあると言われていますが、その中でも最もバリエーションが豊富なのがブリューヴルストで、これだけでも800以上の種類があると言われています。そしてこれらのブリューヴルストは、大きく4つのタイプに分けられます。まず1番目は温めて食べるタイプのヴルストです。ブラートヴルスト(Bratwurst)やミュンヘナー・ヴァイスヴルスト(Münchener Weisswurst)などのように、食する前に焼いたり、茹でたりして食べるものです。2番目のタイプはフライシュヴルスト(Fleischwurst)やモルタデッラ(Mortadella)といった微細挽きされた挽肉を滑らかな肉生地にして作られるもの、そして3つ目のタイプはヤークトヴルスト(Jagtwurst)のように、粗挽きの挽肉で作られるもの、そして最後がビアシンケン(Biershinken)のように、ぶつ切りの肉片を滑らかに挽き混ぜられた肉生地に混ぜ入れて作るものです。

これらすべてのブリューヴルストに共通しているのは、その新鮮さが命のヴルストだということです。日持ちはせず、新鮮であればあるほど美味しい味を楽しむことができます。ただし、種類によってはビン・缶詰、さらに真空パック詰めにしてチルドあるいは冷凍にしたものも販売されています。海外の消費者も、これらのドイツのスペシャリティを味わえるというわけです。それでは次に、幾つかの代表的なブリューヴルストをご紹介しましょう。

フランクフルター・ヴュルストヒェン(Frankfurter Würstchen)

皆様よくご存知のフランクフルト・ソーセージはブリュー・ヴルストの仲間で、ヘッセン州フランクフルト出身の伝統的なブリューヴルストです。但し、長さ20cm前後、直径が1.5~2cmほどと、細く小型な形から、ドイツ語では「ヴルスト」ではなく、「小さいヴルスト」という意味の「ヴュルストヒェン」を用い、フランクフルター・ヴュルストヒェン(Frankfurter Würstchen)、短く一言で「フランクフルター」とも呼ばれています。

伝統的な工法のフランクフルター・ヴュルストヒェンは、脂肪分の少ない豚肉のみを使い、薄い羊腸に詰め、ブナ材のくん煙をかけて作られます。黄金色で、ほのかにスモークの香りのするフランクフルター・ヴュルストヒェンは、誰からも好まれるドイツのスペシャリティです。

フランクフルター・ヴュルストヒェンの食べ方はいろいろありますが、お湯の中で8分ほど温めて、マスタードをつけ、指で持って食べるのが一番美味しいと言われます。温める際は決して湯を沸騰させないで、湯の温度が下がらない程度の弱火にしておくのがコツです。ぐらぐらと沸かすと、せっかくのソーセージが縦に割れて肉のうまみが出てしまったり、スが入ってしまいます。

ボックヴルスト(Bockwurst)

ボックヴルスト(Bockwurst)は1880年代後半、ベルリンのクナイペ(=Kneipe:飲み屋)で、ボックビア(アルコール度の高いシュタルクビアの一つとして有名なドイツビール)と一緒に供していたことから、このヴルストをボックヴルストと呼ぶようになったと言われています。通常のものは豚肉と脂身を混ぜて作られますが、レシピによっては七面鳥あるいは羊肉を使うものもあります。細挽きにした挽肉に、塩、白胡椒、パプリカなどを基本のスパイスとして添加し、豚腸、羊腸等の天然ケーシングに充填し、茹でて出来上がりです。その後くん煙されるものもあり、薄いブロンズ色の色彩を持っています。ボックヴルストは冷たいまま、あるいは温めてマスタードをつけてパンやブロートヒェン(小型パン)と一緒に食します。さらにスープに入れて具材として楽しむ場合もあります。

クナックヴルスト(Knackwurst)

クナックヴルスト(Knackwurst)のクナックとは、ドイツ語で「ポキッと、あるいはサクサクとした歯応えのある」等を意味する言葉で、その名の通り、ポキっとした噛み応えのあるヴルストです。一言でクナッカー(Knacker)と呼ばれることも多くあります。

クナックヴルストは、南部では一般的にブリューヴルストとして作られますが、ドイツ北部や東部の地域ではむしろローヴルスト(非加熱ソーセージ)として、スパイスを効かせ、軽くスモークした後、乾燥させて作る場合が多いようです。ローヴルストはそのまま、あるいは茹でて食べたり、アイントプフ(具たくさんのスープ)等の具材として調理して食します。ベルリンのスペシャリティ「ベルリーナー・クナッカー」(Berliner Knacker)や、テューリンゲン地方のスペシャリティ「テューリンガー・クナックヴルスト」(Thüringer Knackwurst)はローヴルストとして知られています。

ヴァイスヴルスト(Weisswurst)

ヴァイスヴルスト(Weisswurst)は、白い(ヴァイス= Weiß)ソーセージと言う意味で、その名の通り、色の白いヴルストです。バイエルン州ミュンヘンのスペシャリティとして世界的に有名ですが、その他幾つかの地域でも作られています。そのためミュンヘンで製造されるものは、ミュンヘナー・ヴァイスヴルスト(Münchener Weisswurst)と地名をつけて呼ばれています。オリジナルのミュンヘナー・ヴァイスヴルストは仔牛肉、豚の脂身、そして加熱処理された豚の皮を入れて作ります。それぞれのレシピによってスパイスの種類が異なり、パセリ、レモンの皮、オニオンやジンジャーまたカルダモンなどを加えるものもあります。混ぜ合わせた挽肉の生地を豚腸へ詰め、ボイルして食します。

ヴァイスヴルストはケーシングをはずして、甘口のマスタード(Süßer Senf)を付けて食べる点に特徴があります。午後になると鮮度が落ちてしまうという理由から、以前は正午を過ぎるとこのヴァイスヴルストは食べることはできませんでしたが、今日では冷蔵技術も発達し、一日中食べられるようになりました。また茹でたものを真空パックにしたものや、ビン・缶詰にして賞味期限を長くしたものも出回っています。さらに豚肉のみを使って作られるヴァイスヴルストは、世界各地へ輸出され、グルメの舌を日夜楽しませています。口の中で広がるヴァイスヴルストのジューシーで口当たりの柔らかい、それでいて濃厚な味わいが甘口のマスタードと交わり、絶妙な味をかもし出しています。

ブラートヴルスト(Bratwurst)

さて、ここでドイツの国民的なヴルスト、ブラートヴルスト(Bratwurst)についてお話いたしましょう。ドイツ各地の町や村に、その土地のスペシャリティとしてのブラートヴルストがあると言っても過言ではないほど、多くのブラートヴルストがあります。ブラートヴルストのブラートはドイツ語の「焼く」と言う単語、ブラーテン(Braten)のことで、一般的に、ブラートヴルストは「焼きソーセージ」のことを意味すると考えられています。ただし、元々の由来は、ブレート(Brät:細かくみじん切りあるいは挽いた脂肪分の少ない肉という意味)の生地で作られているヴルストという意味から、ブラートヴルストと名づけられました。ブラートヴルストは、実際、焼いて食べることが多いのは事実ですが、中には焼かないで食べるブラートヴルストもあります。従って、焼いて食べるブラートヴルストの中には、特に「焼きソーセージ」であることを強調するため、「ロースト・ブラートヴルスト」、あるいは「グリルヴルスト」と呼ぶものも多くあります。

それぞれの地域には、その地の伝統ある作り方で作られたブラートヴルストがあり、豚肉のみ、あるいは仔牛肉と牛肉を混ぜたものを使ったり、肉の挽き方も細かく挽いたものや粗いもの、さらには豆粒ほどの大きさの肉片を混ぜ合わせたものなど、豊富なバリエーションがあります。そしてケーシングは豚腸や羊腸など天然のものが用いられます。ブラートヴルストはブリューヴルストの一種ですから、製造の最終段階で茹でて加熱したものを完成品として出荷するのが一般的で、食べる際に外側をグリルあるいはフライパンでこんがりと焼いて食します。ただし自家製のヴルストを販売する肉屋などで、加熱する前のフレッシュな生のブラートヴルストを入手することも可能で、これは肉の味がしっかりと味わえることから、大変人気があります。もちろん、生のブラートヴルストは日持ちがしませんので、買ったその日のうちに食します。夏の夜、庭でグリルパーティーをする際など、フレッシュなブラートヴルストはもってこいの一品で、皆が食べたい人気のヴルストです。

特に広く知られているのが、バイエルン州ニュルンベルク出身のニュルンベルガー・ロ-スト・ブラートヴルスト(Nürnberger Rostbratwurst)、フランケン地方のフレンキッシェ・ブラートヴルスト(Fränkische Bratwurst)、プファルツ地方のプフェルツァー・ブラートヴルスト(Pfälzer Bratwurst)、テューリンゲン地方のテューリンガー・ロースト・ブラートヴルスト(Thüringer Rostbratwurst)などです。このうちニュルンベルガー・ロースト・ブラートヴルストとテューリンガー・ロースト・ブラートヴルストは、EUの地理的表示保護制度に認定されています。

フライシュヴルスト(Fleischwurst)

フライシュヴルスト(Fleischwurst)のフライシュはドイツ語で「肉」を指しますから、ミート・ソーセージという意味になります。通常はスライスしてそのまま、あるいはパンにのせて食べる、スライスタイプのヴルストです。それぞれのレシピによって使用する肉も異なりますが、一般的には脂肪分の少ない豚肉と牛肉、そして脂身を細かく挽き、スパイスをさらに混ぜ合わせ人工あるいは天然のケーシングに詰め、茹でて作ります。ガーリックの効いたもの、あるいはコリアンダーを加えたもの、またジンジャー、シナモン、胡椒やナツメグなど添加されるスパイスもいろいろです。またレシピによっては茹でる前にスモークをかけるものもあります。

リング状にしたフライシュヴルストはドイツではたいへんポピュラーな一品で、ヴルスト・サラダに、あるいはパンにはさんでサンドイッチに、また厚めにスライスしてフライパンで焼いたり、スープの具材にしたりと、その食べ方もバリエーション豊富で、広く親しまれています。

リオナー(Lyoner)

フライシュヴルストの仲間に、日本では「リオナソーセージ」と呼ばれているフランスのリオン(Lyon)出身のヴルスト、リオナーがあります。ドイツではポピュラーなスライスタイプのソーセージの一つとして、大変好まれています。ドイツのリオナーはバリエーション豊富なヴルストです。基本となるものは、豚肉と牛肉を細挽きあるいは粗挽きにして脂身、氷を混ぜて肉生地を作り、多くが人工ケーシングに充填されて作られています。それぞれのレシピによって添加されるスパイスは異なりますが、通常はマイルドな味付けとなっています。また赤ピーマンのみじん切りやマッシュルーム、あるいはピスタチオなどが入ったものもあります。

普通は茹でて完成ですが、レシピによってはその後、軽くスモークするものもあるようです。リオナーは軽い口当たりから、薄くスライスして朝食のパンにのせて食べるヴルストの定番です。

ゲルプヴルスト(Gelbwurst)

ゲルプヴルスト(Gelbwurst)のゲルプは黄色という意味で、黄色いソーセージと名づけられたバイエルン州のスペシャリティです。サフランで着色された豚の小腸に肉生地を詰めて作ったことから、この名前がついたと言われています。ただし現在では黄色の人工ケーシングに詰めて作られることの方が多いようです。また以前は脳を加えて作っていたことから、ヒルン(Hirn:脳)ヴルストとも呼ばれていました。現在は、脳を入れずに作られています。

脂肪分の少ない細挽きの豚肉と牛肉を使い、マイルドな味わいに仕上げたヴルストで、バイエルン州では人気のヴルストです。

モルタデッラ(Mortadella)

その名前からもご想像いただけるかもしれませんが、モルタデッラ(Mortadella)はイタリア、ボローニャ生まれのヴルストで、日本では「ボローニャソーセージ」と呼ばれています。

ドイツのモルタデッラはイタリアのものと製造方法が違い、味や大きさも異なります。ドイツでは、スライスタイプのヴルストとして好まれています。

ヤークトヴルスト(Jagdwurst)

ヤークトヴルスト(Jagdwurst)のヤークトとは「狩り、猟」という意味で、狩人が携帯食料として持って出たことから、この名前がついたのではないかと言われています。豚肉のみ、あるいは牛肉と豚肉を合わせものと、脂身を混ぜて作ります。それぞれのレシピによって肉の挽き方が微妙に異なりますが、一般的には細挽きにして滑らかに混ぜた生地と粗挽き肉、あるいはみじん切りにした肉を均等に混ぜて作ります。通常はスライスしてそのまま、あるいはパンにのせて食べますが、温めて食べても美味しいヴルストです。

ビアシンケン(Bierschinken)

ビアシンケン(Bierschinken)のビア(Bier)はビールのことを、シンケン(Schinken)はハムのことを意味します。ビールの友として食べることから、このように呼ばれるようになったと言われています。

ビアシンケンを作るには、まずクルミ大の大きさに切った脂肪分や筋のない豚肉の塩漬けにしたものを用意します。この肉片を、豚肉と脂身を細挽きにして滑らかにした肉生地に混ぜ合わせます。人工ケーシングに充填し、茹でて出来上がりです。肉片の分量は全体量の約5割から6割になるようです。

薄くスライスしてパンにのせたり、そのまま食べたりするビアシンケンは、なめらかなヴルストの中にしっかりとした豚肉の味と歯ごたえを感じられるヴルストで、スペシャリティの一品です。

フライシュケーゼ(Fleischkäse)

フライシュケーゼ(Fleischkäse)は、別名レバーケーゼ(Leberkäse)、レバーカース(Leberkas)、あるいはレバーケース(Leberkäs)等、いろいろな呼び名で呼ばれているローフ型のヴルストで、ブリューヴルストに属します。因みに、ドイツ語でチーズのことを「ケーゼ=Käse」と言いますが、レバーケーゼの「ケーゼ」はチーズとは関係なく、当時このソーセージを焼くのに用いられたキャセロール(Kasserolle)の呼び方が変化したものと言われています。フライシュケーゼ/レバーケーゼは、18世紀後半にバイエルン地方で生まれたとされていますが、現在では全国的に誰からも好んで食べられるヴルストの一つです。

豚肉、仔牛肉そして脂身を使い、玉ネギと種々スパイスをミックスしてよく練り、滑らかな肉生地にしたものを焼型に入れ、オーブンで焼いて完成です。そのまま薄めに切ってパンにのせたり、温めて厚めに切ってパンにはさんだり、厚めにスライスしたものをフライパンで両面焼いて、目玉焼きとポテトサラダを添えて食べたりと、その食べ方もいろいろあります。