ジャガイモ

ジャガイモはドイツ語でKartoffel/カルトッフェル (複数:Kartoffeln/カルトッフェルン)と呼ばれ、国民の誰からも愛され、国内全域で好んで食されています。ポテトサラダに、茹でジャガを肉料理の付け合せに、またはスープや煮込み料理に、オーブン料理にと、ジャガイモを使った種々様々な料理が作られています。

ドイツでは、週末、町のマルクト(市場)へ行くと、小粒のものから大粒のもの、丸い形や、卵型そして細長いもの、皮が赤味がかったものや、淡黄色のものなど、いろいろな種類のジャガイモが売られているのを間近に見ることができます。さらにスーパーやデパートの青果物売場には大袋に入ったジャガイモが並び、食料品売場には冷凍やインスタントのジャガイモ調製品が所狭しと並んでいて、手間と時間をかけずに美味しいジャガイモ料理を家庭で簡単に作れます。またお菓子売場にはいろいろな種類のポテト製品がスナック菓子として味を変え、姿を変えて私たちを誘惑しています。「たかがジャガイモ、されどジャガイモ」、一言でジャガイモと言っても、ドイツには想像を超える奥の深い世界が広がっているのです。

ジャガイモの歴史

ジャガイモは南米の高地が原産地とされ、日本には1600年頃にジャカルタからオランダ船によってもたらされました。それではヨーロッパには誰がいつ、ジャガイモをもたらしたのでしょうか?これについては諸説あり、現在でもはっきりとしたことは分かっていません。一般的には16世紀にスペイン人が南米から持ち帰ったのが初めと言われています。ただし当時は食用ではなく、鑑賞用として宮廷内の庭園や植物園で、そのきれいな花を楽しむために栽培されていました。

16世紀中頃にはオランダやイタリアに紹介され、ドイツには16世紀末に入ったとされています。当時はカルトッフェルではなくイタリア語の“Tartificolo“ から「Tartuffel / タルトゥッフェル」と呼ばれていました。ドイツでカルトッフェルという名称で呼ばれるようになったのは1700年代に入ってからのことです。またドイツ語にはジャガイモを「Erdapfel / エルト・アプフェル=大地のリンゴ」という言い方もあります。

1649年にはベルリンのルストガルテン(宮廷庭園)でジャガイモが栽培されていたと言われ、その後17世紀に入って食用として栽培されるようになりました。ジャガイモは寒冷な気候でも生育することから、当時度々あった農産物や穀物の不作の年に飢饉を回避するための食糧として、その役割を担うようになりました。ジャガイモの食用としての価値が見出されたわけです。

18世紀後半になると、ジャガイモは食材として日常的に食されるようになり、19世紀始めにはドイツのいろいろな地域で栽培され、国民食と言っても良い程に多くの人に好まれ、食されるようになりました。この結果、いろいろなジャガイモ料理が誕生し、その土地や地域の郷土料理として、またそれぞれの家庭料理として、現在まで受け継がれてきたわけです。特にドイツ北部の地方では当時のメニューの大半がジャガイモ料理へと変化するほどだったそうです。400年前にドイツにその第一歩をしるしたジャガイモは、長い歴史の間に人々から最も愛される食材の一つとして、また特産品の一つとしてその根をしっかりとドイツの大地におろしました。

ドイツ・ジャガイモ事情

ドイツでジャガイモが最も栽培されているのはニーダーザクセン州で全体の約40%、次に多いのがバイエルン州で約18%となっています。

合計276,000 haの栽培面積のうち、およそ15,000 haが早生の種類(Frühkartoffeln)で、残り261,000 haは中早生~晩生の種類になっており、そのうち166,000 haは加工用ジャガイモ(Verarbeitungs- oder Industriekartoffeln)、残りが直消用(Speisekartoffeln)です。

世界中には5,000種ものジャガイモがあるといわれており、ドイツではそのうち250種が栽培されています。栽培量は、2012年で10,665,600トンですが、これは世界第6位です。(1位は中国、次にインド、ロシア、ウクライナ、アメリカと続きます)

ドイツ人のジャガイモの消費は、1950年代には一人頭の平均が220kg、1965年には108 kg、1990年が75 kg、2006年には63 kgと、年々落ちてきていますが、これは食生活の多様化によるものといえます。逆にポテトチップス、フライドポテトなどの消費は工業化が進む時代には増加していました。

ドイツのジャガイモの分類

現在200品種以上のジャガイモがドイツ連邦品種管理局(Bundessortenamt / ブンデス・ゾルテンアムト)に食用ジャガイモ(Speisekartoffel)として登録されており、市場への流通を許可されています。
この他、品種登録されていない、あるいはその必要のない品種も数多くあります。これらのジャガイモはでん粉やアルコール飲料の原料用として、あるいはジャガイモ調製品への加工用として、また飼料用ジャガイモ(Futterkartoffel)として、さらには種イモ用(Pflanzkartoffel)として生産されています。
ドイツではジャガイモを分類する際、二通りの方法を用います。一つは作型(収穫時期)から分類する方法で、これは生育期間や収穫期、また気候環境への適合などを重要視している生産者やジャガイモ調製品の製造業者からみて大きな意味をもっています。もう一つの方法は、それぞれのジャガイモの特性を調理タイプから分類する方法で、ジャガイモを販売する際に表示するよう「Verordnung über gesetzliche Handelsklassen für Speisekartoffeln=ジャガイモ品質等級令」の中で義務付けられています。この調理タイプの分類は、消費者のためのもので、これによって消費者は目的に合ったジャガイモを選ぶことができるのです。なお、生産者が消費者へジャガイモを直売する際には、この表示義務は免除されます。

作型

基本となる作型(収穫時期)は早生、中早生、晩生の3期ですが、この早生種をさらに極早生と早生に分けて4期にする場合と、晩生種をさらに晩生と中晩生-極晩生とに分けて全部で5期に分類する場合とがあります。どちらの分類方法もよく使われています。

極早生種(sehr frühe Sorten)、および早生種(frühe Sorten) ドイツ語でこの時期のジャガイモを「Frühkartoffeln / フリューカルトッフェルン=早生のジャガイモ」と呼んでいます。これは年始めに植付けられ、多くの場合トンネル被覆で栽培され、5月中旬過ぎ頃から収穫時期を迎える早生のジャガイモで、日本で言う「新ジャガ」のことです。極早生種はホワイトアスパラガスの旬が終わりに近づいた5月下旬から6月にかけて市場に出回り、国産の新ジャガとして大変人気があります。旬の新物を待ちわびていた消費者に、黄金色の春の味わいを運んでくるのです。早生種はその後7月から8月中旬頃まで店頭にならびます。因みに「Frühkartoffeln / フリューカルトッフェルン」と言う 名称は8月10日までに出荷されたもののみに使用するよう「ジャガイモ品質等級令」の中で決められています。

消費者にはうれしいこの早生種のジャガイモですが、生産者にとっては苦労の多い品種のようです。生育や収穫量そして品質も晩冬から春先にかけての天候に左右されることが多く、それは最終的に価格にも反映されてくるからです。また掘り起こしてから市場へ出すまでの時間をいかに短縮するかも問題となってきます。新物は「掘り立てが命」で、畑から消費者の手元まで、生卵をとりあつかうように大事に傷をつけないで運ぶことが、最高のクオリティーを提供することにつながるわけです。

中早生種(Mittel frühe Sorten) 8月中・下旬から10月の始めまで収穫されるジャガイモで、ドイツでは一番多く収穫されるジャガイモです。そして人気のある品種が多くあるのもこの時期のジャガイモです。4~8週間程度保存が効きます。

晩生種(Späte Sorten)、中晩生-極晩生種(mittelspäte bis sehr späte Sorten) 9月下旬から10月にかけて収穫されるジャガイモ。全体からみると品種の数も少なく、収穫量も少ないものですが、長期保存が効くジャガイモの種類です。貯蔵期間中に味わいが深まり、冬に美味しいジャガイモを食べることができます。

調理タイプ
ドイツではジャガイモを3つの調理タイプに分類して、それぞれの品種がどのような調理方法に向いているかを定義付けています。

煮くずれしないタイプ: このタイプをドイツ語で「Fest kochende Kartoffeln / フェスト・コッヘンデ・カルトッフェルン」と呼びます。茹でたり、炒めたり、あるいはオーブン焼きにするなどしても形がくずれず、元の姿を保っているジャガイモです。これはジャガイモに含まれるデンプンの量が少ないためで、収穫時期の早いジャガイモ品種に多いタイプです。ポテトサラダをはじめ、塩茹でジャガイモや皮付き茹でジャガイモ、また茹でたジャガイモを炒めたブラート・カルトッフェルンなどに適しています。

ほぼ煮くずれしにくいタイプ: 「Vorwiegend fest kochende Kartoffeln / フォアヴィー ゲント・フェストコッヘンデ・カルトッフェルン」と言うタイプに分類されるジャガイモは、デンプン質が多いにもかかわらず、煮くずれしにくいジャガイモです。品種によって煮くずれしないものや、少々柔らかくなるものまで、その特徴も幅広く、バラエティに富んだ調理に用いることができます。ドイツでは一番人気のジャガイモタイプです。塩茹でジャガイモ、グリル焼き、あるいはブラート・カルトッフェルン、さらにはポテト・パンケーキやフライドポテトなどに合うタイプです。

煮くずれやすいタイプ: 3番目は調理をすると煮くずれやすい種類のジャガイモで、これを「mehlig kochende Kartoffen / メーリッヒ・コッヘンデ・カルトッフェルン」と言います。茹でると粉ふきイモになるのがこのタイプのもので、ホクホクとした特徴をもっています。デンプン質を多く含んでいますので、マッシュポテトやジャガイモで作る団子、またスープやアイントプフと呼ばれる具だくさんのスープ等に適していて、とろみをつけたいスープを作る時には最適です。

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