ローヴルスト(Rohwurst)

ローヴルストのロー(Roh)とは生という意味で、ローヴルストはいわゆる『非加熱ソーセージ』を指します。生の牛肉あるいは豚肉に、脂身、塩、香辛料を加えて作ります。肉と脂身は回転刃のついた専用の機械の中で、それぞれのタイプのヴルストに合わせて、粗挽きや細挽きに挽かれます。そして各々のレシピに従って、塩と香辛料が添加され、豚腸や羊腸等の天然ケーシングや人工ケーシングに充填されます。その後、15~22度の室温の中で乾燥、熟成させて、出来上がりです。この際に肉から水分が蒸発して、ソーセージが収縮するので、ケーシングには通気性があり、伸縮性のあるものが要求されます。

一部のローヴルストは乾燥・熟成のみで、そのまま製品として出荷されますが、多くのローヴルストは乾燥後、くん煙をかけてスモークされます。その後さらに時間をかけて自然乾燥させ、熟成を進ませるものもあり、その製造方法は様々です。肉の配分比率や挽き方、また添加する香辛料などの種類や分量、さらに乾燥やくん煙にかかる時間など、いずれのヴルストの製造工程も、製品の味や香り、硬さ、そして熟成度を左右する重要なポイントとなります。

ドイツにはローヴルストだけでも500を超える種類があると言われますが、大別すると、パンなどに塗って食べるスプレッドタイプのものと、スライスあるいはそのまま食べるタイプのものとに分けられます。この2つのタイプを分ける大きな違いはそれぞれの品質保持期限で、スプレッドタイプのローヴルストはスライスタイプのものより品質保持期限が短いため、早めに食する必要があります。ただし、スプレッドタイプのヴルストを加熱処理し、ビン詰あるいは缶詰にした製品も作られており、これらは長期保存を可能にしています。

スプレッドタイプのものは、ドイツ語で一般にシュトライヒ・ヴルスト(Streichwurst)、あるいはシュミアヴルスト(Schmierwurst)と総称されます。テーヴルスト(Teewurst)、シュトライヒ・メットヴルスト(Streichmettwurst)は、代表的なスプレッドタイプのローヴルストです。

一方、スライスタイプのものはダウアーヴルスト(Dauerwurst)あるいはハルトヴルスト(Hartwurst)と呼ばれます。ダウアーは「長い時間」あるいは「持続時間」という意味、ハルトは「硬い、ハード」という意味で、その名の通り、このタイプのソーセージは月単位での保存が可能です。スライスタイプの代表選手にはサラミ(Salami)、セルベラート・ヴルスト(Cervelatwurst)、プロックヴルスト(Plockwurst)などがあります。以下では、もう少し詳しくご紹介しましょう。

テーヴルスト(Teewurst)

テーヴルストのテー(tee)は英語のteaを意味します。パン等に塗るスプレッドタイプのソーセージで、ティータイムにカナッペにして、あるいはビールの友としてパンにつけて楽しみます。特にフォルコルン・ブロート(Vollkornbrot:全粒粉パン)に良くマッチするソーセージです。

テーヴルストは、豚肉(牛肉との合挽きもあり)と脂身を混ぜて、挽肉にして作ります。挽き方は粗挽きあるいは細挽きのものなど様々で、地方によってその伝統的なレシピを用いることから、全体のバリエーションも豊富です。

多くの種類のテーヴルストはくん煙をかけて作られ、ヴルストの持つ力強い味と、ほど良いスモークの芳香は誰からも好まれています。香辛料にはカルダモン、ジンジャー、ハチミツ等を加えるものや、ラム酒につけたジュニパーベリーを加えるものもあります。

メットヴルスト(Mettwurst)

メットヴルストのメット(Mett)とは、脂身のない豚肉の挽肉のことを言います。メットヴルストは豚肉の挽肉を使って作ったソーセージの総称と言えます。

メットヴルストは、地方によってその姿を変える点に特徴があります。ドイツ南部ではスプレッドタイプのソーセージとして作られ、テーヴルストと同じように親しまれています。左写真のツヴィーヴェル・メットヴルスト(Zwiebelmettwurst)は、オニオンのみじん切りを加えた、スプレッドタイプのソーセージです。

これに対して、ドイツの北部や東部の地域のメットヴルストは、長時間のくん煙あるいは自然乾燥によって、ハ-ドタイプのソーセージとして作られるのが一般的です。そのため、スプレッドタイプのメットヴルストはハードタイプのものと区別するために、塗るタイプという意味で、シュトライヒ・メットヴルスト(Streichmettwurst)とも呼ばれています。

シュトライヒ・メットヴルストの多くは豚肉約60%、脂身と香辛料約35%の配分で作られ、ケーシングに詰めたソーセージを丸一日約15度で乾燥させます。その後12時間程くん煙室でスモークし、最後に再び15度ほどの室温の中で吊り下げて乾燥させて出来上がりです。原料となる肉は粗挽きあるいは細挽きのものがあり、香辛料にガーリックを効かせたものやキャラウェイを加えたものもあります。ニーダーザクセン州東部ブラウンシュヴァイク市出身のメットヴルストは、ブラウンシュヴァイガー・シュトライヒ・メットヴルスト(Braunschweiger Streichmettwurst)としてドイツ全国に知られています。

一方、ドイツ北部、東部の地域のメットヴルストは、豚の挽肉に香辛料を効かせ、乾燥、熟成に長い時間をかけて作られるハードタイプのソーセージです。そのまま食べたり、アイントプフ(具たくさんのスープ)に入れて煮込んで食べたりと、その食べ方もバリエーション豊かです。メットヴルストをグリューンコール(キャベツの仲間の野菜)と一緒に調理した一品は、北ドイツの名物料理となっています。

ブレーゲンヴルスト(Brägenwurst)と呼ばれるニーダーザクセン州とザクセン・アンハルト州のスペシャリティーも、グリューンコール料理に使われることの多いハードタイプのメットヴルストの仲間です。ブレーゲンとはドイツ北部の方言で「脳」あるいは「頭」と言う意味で、以前は牛の脳みそを混ぜて作っていたことからその名前がつけられました。現在は、脳は入れずに豚肉と豚の脂身を挽いたものや、オニオンや香辛料を入れて作られています。マイルドにスモークされたブレーゲンヴルストは、脂肪分の多い濃厚な味のヴルストです。

コールヴルスト(Kohlwurst)

コール・ヴルストも、その名の通り、グリューンコールの料理によく使われるソーセージで、北ドイツで好んで食されます。コール・ヴルストは1~2週間の時間をかけてスモークされて、製品になります。煮たり焼いたりはせずに、温める程度で食べるソーセージです。地域によっては、ルンゲン・ヴルスト(Lungenwurst)あるいはルング・ヴルスト(Lungwurst)とも呼ばれています。ルンゲ(Lunge)とは「肺」のことで、豚肉、脂身の他に、肺も混ぜて作ることから、この名前で呼ばれているわけです。香辛料にはコショウ、オニオンをはじめ、オールスパイス(ピメント)やマジョラム、あるいはタイムなど、それぞれの地域のレシピにそったスパイスが使われています。

サラミ(Salami)

スライスタイプのロー・ヴルストの代表格がサラミです。ドイツのサラミには長いものやリング状のもの等があり、その製造方法も地方や地域によって様々です。肉の挽き方も極細に挽くものから粗挽きのものまで、また牛肉、豚肉そして脂身の配分比率や添加される香辛料の違いなど、それぞれのサラミがその特徴を限りなく発揮するよう作られています。

なかにはウイスキーや赤ワインを加えるものなどもあります。さらに胡椒の粒、ハーブ、チーズ、ローストオニオンあるいはプンパーニッケルなどで外側を被覆されているものもあります。果てしないバリエーションが広がっているのがドイツのサラミなのです。

ラントイエーガー(Landjäger)

ドイツには丸型ではなく、平たく四角形のソーセージもあります。ラントイエーガー(Landjäger)は、15cm程の長さの四角形のダウアー・ヴルスト(Dauerwurst)です。ドイツ西南地方出身と言われていますが、現在は各地で作られ、地方によってレシピも異なります。一般には、牛もしくは豚肉の挽肉、または合挽き肉を使って作られます。ケーシングに充填された後、ケースにきっちりと並べられ、ボードを乗せて、上から圧力をかけます。これによって四角のフォームに出来上がるわけです。室温で3、4日ほど熟成させた後、さらに3、4日吊るして乾燥させます。最後に一日くん煙をかけて出来上がります。手で持って簡単に食べることができるので、おやつとして、またパンと一緒にあるいはビールのおつまみとしても最適なミニサイズのソーセージです。

プロックヴルスト(Plockwurst)

プロック・ヴルストは、筋をはずした牛肉と豚肉、脂身を粗く挽いて作られるスライスタイプのソーセージです。他のソーセージ以上に、牛肉の比率が高いことが特徴です。一部の地方のものは自然乾燥のみで完成させますが、通常は3~4日乾燥、熟成させた後、低温でくん煙をかけます。

味がサラミに似ていることから、ピザなどに使われることも多くあります。また、アウフラウフ(Auflauf)と呼ばれるグラタンや、スフレタイプのオーブン料理の具材としても使われ、スモークの香りが美味しい料理を作り出します。

セルベラート・ヴルスト(Cervelatwurst)

セルベラート・ヴルストのセルベラート(Cervelat)とはラテン語の「Cerebrum・ツェレブルム」という単語から生まれた言葉で、「脳」と言う意味です。以前は豚肉の挽肉に豚の脳みそを混ぜて作っていたことに由来していますが、現在では豚肉と牛肉を合わせて細挽きにし、香辛料を加えて作ります。香辛料には塩、コショウの他にブランデ-漬けされたジュニパーベリーが加えられることもあります。その後、4~6日ほどかけて乾燥、熟成させた後、くん煙でスモークされます。バラ色に近い明るい色をしたセルベラート・ヴルストはとてもマイルドで繊細な味を持ち、ドイツでは誰からも好まれているソーセージの一品です。

カーテン・ラオホヴルスト(Katenrauchwurst)

カーテン・ラオホ・ヴルストのカーテ(Kate)とは「小屋」のことで、肉を小屋の天井からぶら下げて乾燥させて作ったことに由来しています。昔はその小屋で住人が生活しており、かまどから立ち上る煙で天井からぶら下げた肉がほど良く燻され、ハムやソーセージとなったわけです。カーテン・ラオホヴルストは豚肉のみを使って作られ、スモークの効いたボリュームのある味が特徴のダウアーヴルストです。 因みにドイツ北部出身の生ハム、カーテンシンケン(Katenschinken)は、伝統ある食肉加工品として広く知られています。