バター

バターの基本的な製造原理は、数百年前も現在も殆ど変わりません。ただし以前は人力によって作業されていた工程が、現在は衛生条件が厳格に管理された工場で近代的な機械によって作られており、その製造技術は、以前とは比べものにならないほどバターの品質を高め、良質の製品を消費者へ提供することを可能にしています。

それでは簡単に現在ドイツのバターがどのように作られているかご説明いたしましょう。

バターの製造工程の第一段階は、生乳を分離機(Separator:ゼパラトアー)に入れることから始まります。なお、1kgのバターを作るためには25リットルの生乳(あるいは2.5リットルのクリーム)が必要となります。

この分離機の中で生乳からクリームを分離させます。ドイツ語では、この分離されたクリームをミルヒフェット(Milchfett)またはラーム(Rahm)と呼び、38~42%の乳脂肪分が含まれています。クリームを取り出して残ったものはマーガーミルヒ(Magermilch)と呼ばれる脱脂乳(スキムミルク)です。

次に分離させたクリームを95℃~105℃で加熱殺菌(Pasteurisierung:パストリジィールング)します。

加熱殺菌処理後、直ちにクリームを冷却します。ここでクリームの温度は次の熟成工程での適温13~16℃にまで下げられます。

次に熟成工程に入りますが、ここからはバターの種類によって工程が変わってきます。ドイツには大きく分けて3つの基本となるバターの種類があります。

ザウアーラーム・ブッター(Sauerrahmbutter) これは発酵バターのことで、冷却したクリームに乳酸菌を加えた後、7~10時間ほど熟成させます。

ジュースラーム・ブッター(Süßrahmbutter) ズュース・ラームは文字通り訳しますと甘いクリームと言う意味ですが、これは非発酵バターのことを言います。英語ではスイート・クリーム・バター(sweet cream butter)です。発酵させないで作りますので、冷却したクリームに乳酸菌は加えずに、そのまま10℃前後の温度で数時間から、長いもので15時間ほど熟成させてから、最終工程へと送ります。

ミルト・ゲゾイエルテ・ブッター(Mildgesäuerte Butter) ドイツ語のミルトとはマイルドの意味で、マイルド発酵バターのことを言います。非発酵バターと同じように、まずは何も加えずに熟成させ、その後乳酸菌、あるいは乳酸を添加します。因みにこのマイルドなバターがドイツでは一番人気のバターです。

ドイツ語ではライフング(Reifung)、日本での業界用語ではエージングと呼ばれる熟成の間に、クリームの中の乳脂が結晶粒となっていきます。なお、この熟成の際の温度や熟成時間は、季節やその日の気温によって、さらには完成したバターの特徴など、例えばパンに塗る際の伸び方、滑らかさなどですが、いろいろな条件によって変化してきます。またバターのメーカーによっても、温度や時間設定は違ってくるようです。

さてその熟成が終わった後、どの種類のクリームもフェアブッテルング(Verbutterung)と呼ばれる、クリームがバターに変身する工程へと入ります。 日本ではこの工程を、英語から取ってチャーニング(churning)と呼んでいます。

クリームを8~10℃の温度に下げ、大きな回転シリンダー形状の機械の中に入れます。そして熟成の間に結晶粒となった乳脂(Rahmfettkugelchen:ラームフェット・クーゲルヒェン)が凝固して、バター粒(Butterkörner:ブッターケルナー)となり、液体ブッターミルヒ(Buttermilch:バターミルク)と分離するまで撹拌します。この間にバター粒は粒同士がくっつき、バターの塊が出来上がるのです。バターミルクを取り除いた後、バターを水もしくは脱脂乳で洗います。

最後に、バターの中にまだ残っているバターミルクを取り除くために、よく練ると、香りの高いバターが完成します。出来上がったバターをそれぞれの用途別に形を整え、包装して製品として出荷します。

なお、ドイツのバターは乳脂肪分82%以上、水分は16%以下と決められています。

バターの種類と製造: 前回ご案内いたしましたように、ドイツのバターは、「ザウアーラーム・ブッター(Sauerrahmbutter)」と呼ばれる発酵バター、「ジュースラーム・ブッター(Süßrahmbutter)」と呼ばれる非発酵バター、そして国内で一番人気のあるマイルド発酵バター、「ミルト・ゲゾイエルテ・ブッター(Mildgesäuerte Butter)」の3つの種類に分けられています。発酵バターはクリームに乳酸菌を加え発酵させた後、熟成させて、また非発酵バターはクリームをそのまま熟成させて作ります。マイルド発酵バターはクリームを熟成させた後に乳酸菌を加えて作ります。3種3様の製造工程を通ったバターはそれぞれが特徴ある味を持つ製品となり、市場へと出荷されて行きます。

ドイツでは、バターは食塩無添加で製造されたものが一般的で、加塩されたバターはその旨をパッケージに表記するよう決められています。

食塩不使用バターは乳脂肪分82%以上で、水分含有量は16%を超えてはならないと規定されており、食塩が添加されたバターは乳脂肪分80%以上と規定されています。そして、いずれのタイプでも、その他の成分(乳糖、乳たんぱく、ミネラル分や脂溶性ビタミンなど)は2%を超えてはならないとされています。

品質等級および品質検査: ドイツ産バターは、ドイチェ・マルケン・ブッター(Deutsche Markenbutter)とドイチェ・モルケライ・ブッター(Deutsche Molkereibutter)と呼ばれる2つの品質等級(Handelsklasse:ハンデルス・クラッセ)に分けられています。ドイチェ・マルケン・ブッターとは日本語に直訳すると「ドイツ産トップ・ブランド・バター」となりますが、「ドイツ産最高級バター」のことで、ドイツ国内ではその名の通り最高品質のバターとして、消費者に広く知られています。

一方、ドイチェ・モルケライ・ブッターは「ドイツ産純バター」と訳されています。ただし近年、このドイチェ・モルケライ・ブッターの生産量は激減しており、スーパーなどの小売店ではほとんど見かけなくなりました。ドイツではドイチェ・マルケン・ブッターが圧倒的シェアを誇り、絶大な人気を持っているというわけです。

『バター令』の中で、これらの両等級バターは、殺菌された生乳、あるいは生乳から摂られたクリーム(Rahm:ラーム)、もしくはホエイ・クリーム(Mokerahm:モルケ・ラーム)から製造することと定められています。そして発酵、非発酵、マイルド発酵の3種類のバターは、基本的にこの品質等級のどちらかの等級に属することになっています。

『バター令』では、それぞれのバターの品質検査についても規定を設けており、ドイチェ・マルケン・ブッターの場合は1ヶ月に1度、ドイチェ・モルケライ・ブッターは2ヶ月に1度検査を実施するよう指定されています。この品質検査の際にチェックされるのは、以下の4項目です。

  1. 外観、形体、香り、味、テクスチャー
  2. 水分含有量
  3. 硬性
  4. pH値および微生物含有検査
    1~3の項目については、それぞれ5段階のポイント制で点数がつけられます。 ドイチェ・マルケン・ブッターの場合は、それぞれのテスト項目につき4点以上が、またドイチェ・モルケライ・ブッターではそれぞれの項目に3点以上が必要とされます。 4の検査は公的検査試験所での測定検査となります。 ドイツではこの定期的な品質検査の他に、バター製造工場あるいは加工工場での抜き取り検査、さらには小売店舗でのバターの抜き取り検査も実施されており、等級バターの品質は厳しく管理されています。

なお、ドイツにはこの2つの他に「ドイチェ・コッホ・ブッター(Deutsche Kochbutter)」と呼ばれる品質等級があります。日本語に直しますと「ドイツ産調理用バター」となり、レストランや給食施設などの業務用、また各種の加工食品製造工場、製菓・製パン工場といった大口ユーザーにのみ提供されているバターで、一般のスーパーなど小売店では取り扱われていません。

また国外で製造されドイツへ輸入されるバターは、『バター令』に則った品質必要条件を満たせば、「マルケン・ブッター(Markenbutter)」の品質等級名称を表記することが許可されています。

品質表示: バターのパッケージに表示される内容もまた、法で厳しく規定されており、下記の項目について表記することが義務づけられています。

        • 製品種類名:「バター」という名称が入っていること。 ドイチェ・マルケン・ブッター、あるいはドイチェ・モルケライ・ブッターと書かれていることもあります。
        • バターの種類:発酵、非発酵、マイルド発酵バターのいずれかを表記します。
        • 乳脂肪分含有量:%で表記します。
        • 製造者、加工者あるいは販売者の名称および住所
        • EU統一マーク:国名、製造工場認可番号等
        • 添加物:ベーターカロチンや食塩含有量など。 加塩されたバターで塩分が0.1%以上のものには、「食塩添加バター(Gesalzene Butter)」と明記する義務があります。
        • 賞味期限:保存温度の明記がなく、単に「冷蔵保存」と書かれている場合の賞味期限は、10℃で保存した際の日付となります。
        • 品質保証マーク:「ドイチェ・マルケン・ブッター」にはドイツ国内で品質検査済のバターであることの証明となるマークをつけます。上のバターパッケージの写真で上面左にある「鷲」のマークです。円の囲みの中には「In Deutschland geprüfte Markenware」(ドイツ国内で検査済み製品)と書かれています。
        • 内容量:グラムで明記します。
        • 輸入されたマルケン・ブッターには品質管理検査所の名称や品質検査を実施した連邦州を表記することが義務付けされています。

その他のバター: ドイツにはこの他にも脂肪分をカットしたバター等もあります。これらはそのカットした分量によって「3/4バター」(Dreiviertelfettbutter)、あるいは「ハーフ・バター」(Halbfettbutter:乳脂肪分39%以上41%以下)と呼ばれています。因みに3/4バターはバター・ライト(Butter leicht)とも呼ばれており、乳脂肪分を60~62%にしたものです。

さらにハーブを添加したハーブ・バターやマスタード・バター、また蜂蜜の入ったハニー・バター、ヨーグルト・バターなども製造販売されています。