ドイツビールについて

ドイツビール

 ドイツにはビール醸造所が約1,270もあり、それらの醸造所で作られる数種から十数種の銘柄のビールを合計すると5,000種を超えるビールが存在します。

 ドイツのビールは長い歴史に育まれ、ひとつの町や村にひとつの銘柄があると言われるほど、地方色が豊かです。それぞれが独特の味、香り、色を持つ、個性豊かなビールです。日本をはじめ世界中に輸出されているビールもありますが、その町に行かなければ飲めないビールや、ビン売りは一切せずに醸造所に併設されたパブやレストランで樽から飲ませるだけのビールもたくさんあります。


ビール純粋令


 中世からドイツでは、おいしく品質のよいビールを作ることを守ってきました。文書で確認できる最古の条例は、1156年にアウクスブルクで制定されたドイツ最古の都市法で、中にはビールについて「劣悪なビールを作るものあるいは量をごまかすものは処罰に値する・・・」と定められています。その後1393年にはニュルンベルク、1363年にミュンヘン、1434年ヴァイセンゼー、1447年にはレーゲンスブルク、1493年にはバイエルン・ランツフートの公爵領などで、それぞれビールの味と品質を守るための条例が定められたり、ビールの品質管理が行われたりしました。それらの集大成といえるのが1516年4月23日にバイエルンのヴィルヘルム四世が発布した「ビール純粋令」と言えるでしょう。『ビールは麦芽、ホップ、水のみによって造られるべし』と定められています。当時はまだ酵母が知られていませんでしたが、16世紀半ばには「ビール純粋令」にもビール酵母が加えられました。

 
 「ビール純粋令」はその後の歴史を経て生き続け、500年以上経った現在でもドイツ国内で醸造されるビールに「ビール純粋令」が受け継がれています。食品に関する条例としては世界最古と言われる所以です。ドイツでは「ビール純粋令」が発令された4月23日を「ドイツビールの日」と定め、各地でイベントが開かれています。

 現在「ビール純粋令」はビール税法内で法制化されています。EU統合により、ドイツへも「ビール純粋令」に則っていないビールが輸入されたり、ドイツの醸造所も国外向けのビールには「純粋令」を守らなくてもよいことになりましたが、ドイツのビール醸造所は「ビール純粋令」を今まで通り守っています。それがドイツビールの伝統と文化、品質と味を維持することをよく知っているからです。

地理的表示保護(Protected geographical indication、略称PGI)に指定されたドイツビール: 1992年に欧州議会で制定された、欧州圏内の生産物を奨励し、それらの品質や盗用の危険から守るために作られた制度です。ドイツのビールも以下の12が認定されています。

 Bayerisches Bier(バイエリシェス・ビア) Bremer Bier(ブレーマー・ビア) Dortmunder Bier(ドルトムンダー・ビア) Gögginger Bier(ゲッギンガー・ビア) Hofer Bier(ホーファー・ビア) Kölsch(ケルシュ) Kulmbacher Bier(クルムバッハ・ビア) Mainfranken-Bier(マインフランケン・ビア) Münchner Bier(ミュンヒナー・ビア) Reuther Bier(ロイター・ビア) Rieser Weizenbier(リーザー・ヴァイツェンビア) Wernesgrüner Bier(ウェルネスグリューナー・ビア)

写真・テキスト@Deutscher Brauer-Bund e.V.

 

ビールの原材料

 

酵 母

 酵母(イースト)は、麦汁の中の糖分をアルコールと炭酸ガスに分解してビールを生み出す「発酵」の主役です。自然界には無数の酵母があると言われていますが、ビールの醸造に適した酵母をビール酵母といい、使われる酵母の種類によって、ビールに香りと味の個性が生まれます。また、酵母はアルコールを作るだけでなく、有機酸やエステルなどの成分も生み出し、麦芽やホップが持つ香り・味の要素と酵母の成分が調和しあうことにより、ビールの味が決まるといわれています。安定した品質の美味しいビールを造るためには、ビール酵母が重要な役割を果たします。なお、ビール酵母は良質なタンパク質、植物繊維、ビタミン、ミネラルを豊富に含む「栄養の宝庫」と呼ばれ、ビール醸造後に健康食品や調味料原料などに広く二次利用されています。

 ビール酵母は、「上面発酵酵母」(別名:エール酵母)と「下面発酵酵母」(別名:ラガー酵母)とに大別されます。エール酵母は15~20℃の常温で短期間に力強く発酵し、発酵の最中に酵母が液体の表面に浮き上がってきます。発酵と熟成が速く進むため、長期貯蔵は行いません。普通、1~2週間で飲めるようになります。香りが高く、味に特徴のあるビールが多く、エール酵母を使用して昔ながらの製法で造られているドイツの上面発酵ビールには、アルトビール、ケルシュビール、ヴァイツェンビールなどがあります。

 一方、ラガー酵母は4~9℃の低温で8日間程度かけて穏やかに発酵し、発酵が終わりに近づくにつれて酵母が集まって発酵タンクの底に沈降していきます。発酵を終え、酵母を分離したビールは、貯酒タンクで5℃から0℃程度に冷やしながら、1ヶ月程度熟成させて仕上げられます。下面発酵はビール7000年の歴史から見れば比較的新しく、15世紀、ドイツ・バイエルンの僧院醸造場で、ラガー酵母を使って低温で醸造し、熟成させる技術が生まれました。なお、ラガーとはドイツ語で「貯蔵」を意味します。

ラガー酵母はエール酵母よりもエステル成分が少ないこともあって、すっきりした味わいが特徴です。ドイツの代表的な下面発酵ビールには、ピルスナービール、ヘルスラガービールをはじめ、メルツェンビール、エクスポートビールなどがあります。

 当初、下面発酵ビールは、寒冷地で冬期だけ醸造し穴蔵で貯蔵され、夏は気温が高くても造れる上面発酵ビールが造られていました。19世紀半ば頃から、氷による貯蔵庫や冷凍機、低温殺菌法、酵母の純粋培養法など、次々と醸造技術が開発され、四季を通じて下面発酵ビールの醸造ができるようになり、その結果、現在は下面発酵の熟成ビールが主流となっています。

 
 ビールの成分の約90%は水です。それだけに水はビールの品質に大きな影響を与えます。ドイツの水はカルシウムやマグネシウムを豊富に含む硬水で、ビールに使用する水は、一般の飲料水規格だけでなく、それ以上に厳しい独自の規格に適合することが求められます。ビールは単に喉の渇きを癒す飲み物、低アルコール飲料にとどまらず、炭水化物、アミノ酸、ミネラル、ビタミンなどの栄養素を含む、無添加の自然食品で、「液体のパン」と呼ばれるほど、バランスの良い栄養食品なのです。
 

麦 芽

 中世にはライ麦、小麦などほぼあらゆる種類の穀物がビールの原料として使われていましたが、現在ドイツで造られるビールにはすべてドイツの豊かな風土で育ったビール大麦(別名:二条大麦)が使用されます。(例外的にヴァイツェンビールには小麦のモルトを加えることが認められています。)

ビールづくりでは、大麦を洗浄、吸水させた後、発芽、乾燥させ「麦芽」にして使います。大麦が発芽するときにつくられる酵素が、大麦の穀粒の中に含まれるでんぷんやたんぱく質を、発酵に必要な糖分やアミノ酸に変える働きをするからです。100リットルのビールを造るには、およそ17.2kgの麦芽が必要とされ、これはビール大麦22kgに相当します。

ビール醸造に使用される大麦は、粒が大きく形が揃っていること、殻皮が薄く、発芽力が高いこと、発芽した際の酵素力が強いことなどの適性が要求されます。健康で良質な大麦を選ぶことが極めて重要になります。また、ビール大麦に含まれるたんぱく質が多いと麦芽のエキス分の低下やビールの香味・安定性に悪影響を与えるため、9.5%~11.5%の含有量のものが最適といわれています。

良質のビール大麦の産地として、バイエルン、テューリンゲン、ザクセン、バーデンヴュルテンベルグ、ラインラントパウティネート、ニーダーザクセンがあげられます。

ホップ

 

 ホップはアサ科のつる性の植物で、松かさのような形をしており、大きさは数センチ程度です。ドイツではホップの花を「緑の黄金」と呼びます。ホップには雌株と雄株がありますが、ビールの原材料として使われるのは雌株につく雌花の集まりの毯果(花のかたまり)だけです。 雄花があると雌花が受精してしまい、ビールの原料として欠かせない油分の組成が損なわれるため、ホップ畑からすべて取り除かれます。ホップは農産物のなかでも栽培管理が難しい品種と言われています。

ホップは古来薬や野菜として珍重されてきました。昔はホップ以外の種々の薬草を使ってビールを醸造していたこともありましたが、1516年の「ビール純粋令」発布以来、ビールの原材料としてホップを使用することが義務付けられ、ホップが使われるようになってビールの品質も一段と向上しました。

ドイツ全体のホップ作付面積は約18,300ヘクタールにものぼり、これは世界全体のホップ作付面積のおよそ25%にあたります。ミュンヘンの北、バイエルン州のハラタウ(Hallertau)は世界最大のホップ生産地域で、作付面積はおよそ15,000ヘクタールと、ドイツ国内の80%以上がこの地域に集中しています。これに次ぐのがボーデン湖近くのテットナンク(Tettnang)の約1,600ヘクタールです。

ホップはビール造りに欠くことのできない重要な役割を果たします。ホップの第一の役割はビールに心地よい苦味を与えてくれることです。ホップを麦汁と一緒に煮沸することによって、ホップの中に含まれるアルファ酸が爽やかな苦味成分となります。苦味成分を抽出するために用いられるホップはビターホップと呼ばれ、現在、ドイツでは作付面積の約40%でアルファ酸を豊富に含むビターホップが作られています。

 ホップのもう1つの重要な役割は、ビールに香りを与えることです。ホップに含まれる油分が、発酵・熟成の過程で生じるエステルなどの成分とともに、ビールのさまざまな微妙な香りを演出します。ビールに香りを与える目的で使用されるホップはアロマホップと呼ばれ、現在、作付面積の約60%を占めています。

 さらに、ホップはビールの泡持ちをよくすることにも役立っています。ホップの苦味成分と、モルトから抽出されるタンパクが結合することで、ビールの泡持ちがよくなるのです。ですから、一般に苦いビールほど泡持ちがよいということになります。この他、ホップはビールの醸造工程中で、余分な蛋白質を凝固・分離してビールを清澄にし、雑菌の繁殖を抑え、食中毒菌や病原菌が増殖しにくくする役割も果たしています。

©Deutscher Brauer-Bund e.V.

 

ピルス-ドイツ人が最も好きなビール

 ピルスは他のビールを大きく引き離してドイツで最も人気のあるビールです。その消費量は全体の65%を占め、ピルスビールはドイツ中どこでもあり、5ツ星レストランのメニューにも合わせられます。

ピルゼンで花開いたバイエルンの醸造技術


 南ドイツではなく北ドイツ生まれのボックビール と同様、ピルスを造り出したのはボヘミア人ではなく、バイエルン出身者でした。 ボヘミアの都市ピルゼンは19世紀半ば、オーストリア・ハンガリー帝国に属していました。しかしこの町のビールは当時、帝国のものとしてふさわしいとは言えませんでした。品質は悪く、ピルゼンの市当局は1838年の2月、市庁舎前で樽36個分のビールを流し捨てるよう指示したほどです。このような状況を改善すべく、同年醸造権を所有する市民らが市民醸造所の共同設立を決定しました。こうして1838年9月15日この町のビールは新たな一歩を踏み出しました。

ピルゼン市民は、ビールの種類も新たな物を求めました。ボヘミア地方では古い伝統に従い上面発酵ビールが造られていましたが、人々の嗜好は変わっていきました。バイエルン風ビールと呼ばれた、濃い色の下面発酵ビールがトレンドとなってきたのです。そこでこの新しい醸造所でもこのようなビールが造れる醸造マイスターが必要となりました。選ばれたのは当時29歳のバイエルンはフィルスホーフェン出身のヨーゼフ・グロルでした。彼の父親はビール醸造所を所有し、また自身が醸造家でもあり、下面発酵ビールの造り方を熱心に研究していました。そのレシピを持ってヨーゼフはピルゼンへ赴きました。

バイエルンと同様、ボヘミア地方でも、冬の間に作った氷を深い地下室や洞窟に保存することができました。そのため一年中4~9℃という一定の温度で下面発酵酵母を使ってのビール醸造ができました。

4年後の1842年11月11日、とうとう実現しました。Zum Goldenen Adler(ツム・ゴルデネン・アードラー)、Zur weißen Rose(ツア・ヴァイセン・ローゼ)、Hanes(ハーネス)の3店の旅館で初めて新しいピルゼンのビールがふるまわれたのです。しかしたった5年間の契約期間しかなかったヨーゼフ・グロルはその後ピルゼンにとどまることができませんでした。ピルスナービールが最初にドイツで知られ、称えられたのはプロイセンでした。その後何十年も後になってバイエルンへもたらされたのでした。

ピルス-男性向けのビール?


 今日も明るい黄金色のピルスはドイツ北部、西部、東部で楽しまれています。ドイツで最も醸造所の集中する南部では他の種類のビールが求められることが多いようです。それでもピルスはドイツで一番人気のビールです。特に男性はホップの効いた苦みを好む傾向があります。統計によると、2人に1人のドイツ人男性が週に一度、3分の1は週に何度もピルスを飲むそうです。麦汁濃度は約11%、アルコール度は48%のピルスはフォルビアになります。ノンアルコールおよび低アルコールのものもあり、ビールを楽しみたくともアルコールを控えなければならないピルスファンの需要を満たしています。


おいしいピルスは3分かかる?


 ピルスは8度が適温と言われます。そして注ぐ時はあまり時間をかけない方がいいようです。「おいしいピルスを注ぐには7分かかる」という説は古くまた正しくありません。そんなに時間をかけるとビールの新鮮さが失われてしまいます。注ぎ方としては、グラスのてっぺんまでゆっくりと泡を立たせながら注ぎます。そして泡が落ち着くまで少し待ち、そして仕上げにビールを足します。これにかかる時間は3分と言われています。

ピルス 飲まれる地域:ドイツ全土
種類:フォルビア
麦汁濃度:11%以上
アルコール度:およそ4.8%
醸造方法:下面発酵 特
徴:明るい黄金色、ホップが強く効いたきめ細やかな泡の立つビール

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ドイツビールの種類:ケルシュ-大聖堂の町のビール

 ケルンの人々は頑固なことが、カーニバルを見ればわかります。ケルンにはカーニバルのプリンセスはなく、王子と農民と、男性から選ばれる乙女の「3つの星」が主役です。この特別なものに対する傾向はこのライン地方の大都市ケルンのビール「ケルシュ」にも反映されています。

明るい色の、よく発酵した上面発酵のフォルビアであるケルシュは、品質だけでなく、味や繊細な香りにも表れており、また全てのケルシュ醸造家とケルシュファンたちにぜったい必要な特権と独自性があります。ケルシュは誰もが造っていいビールではないのです。

「ケルシュ協定」


 1986年3月に24のケルシュ醸造所が「ケルシュ協定」に調印しました。これによってケルシュは地理的表示保護に登録されました。連邦カルテル庁はケルン醸造所組合のこの行動を認め、ケルンとその隣接地域の24の醸造所だけがケルシュを造ることができるとされました。伝統を意識し守ることはもちろん心得ていますが、時代の流れも忘れてはなりません。ケルシュには今日、フォルビア以外にもアルコールフリーやライトといった種類も造られています。ライトなケルシュは、アルコール分が普通のケルシュの半分になっています。


ケルンはケルシュだらけ


 ケルシュはケルン近隣のヴッパータール、レーバークーゼン、コブレンツなどでもよく飲まれていて、ライン地方の暮らしぶりがうかがえます。でもケルシュはケルンとその隣接した地域でのみ造られ、またそのほとんどはそれらの地域で消費されています。ケルシュの人気は世代を超えて、また職業や収入に関係なく広い人気があります。正式なシーンでも飲まれますし、醸造所のレストラン、あるいは高級なレストランにも置いてあります。

 ラインラント出身者でない人がケルシュの居酒屋に寄ると、ケルシュが地元の人々と結びついていることがすぐに感じられるでしょう。陽気でオープンなケルンの人々にぴったりですし、特に女性もケルシュをよく飲みます。

 ケルンの人は人づきあいが好きです。一年に造られるケルシュのおよそ半分は飲食店で消費されています。これは他のビールには見られない傾向です。そのため樽ビールの割合が50%というのは、ドイツのビールの平均が20%ですからかなり高いと言えます。


ケルシュが造られる場所:ケルンとその周辺の地域

種類:フォルビア
麦汁濃度:平均11.3%
アルコール度:4.8%
分類:上面発酵

特徴:ケルシュは薄黄色のホップが効いたビールで、15~20度で発酵させ、酵母が液面に上がってくる上面発酵ビールです。874年からの伝統あるビールで、1250年にはケルン醸造局が存在し、1396年にはケルン醸造所団体ができています。ケルシュは0.2LのStange(シュタンゲ=棒の意)と呼ばれる細長いグラスで飲むのも特徴です。

 またケルシュは、ケルン醸造所組合に属する醸造所のみが醸造できる、EUの地理的保護証明に認定されています。

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ボックビール-強い味わいと長い伝統


 毎年3月になるとテレビでバイエルン的な祝祭が放映されます - ミュンヘンのノックヘルベルクで行われる荘厳なサルバトールビールの樽開きです。ここでは黒っぽい色でコクのある力強いモルトの味わいが効いたボックビールが主役となります。サルバトールの樽開きはまた、この強いビールが楽しめる雰囲気を醸し出すのです。日常の喧騒を忘れて友人たちとゆったりするのにぴったりです。

ボックビールは特別な機会に飲まれるビールです。そのため醸造される量も比較的少なめです。ビール全体の年間生産量1億ヘクトℓのうち、ボックビールの割合はたったの1パーセント未満です。しかしスペシャリティとしてドイツ全土で知られています。あまり知られていないのはボックビールがバイエルンではなく、北部ドイツで生まれたビールだということです。

 最も知られている言い伝えによると、ハノーファー付近のアインベックですでに1351年には強いビールが造られていて、その品質の高さからバイエルンまで輸出されていたということです。公爵や諸侯たちもそのおいしさを称えたといいます。そしてそのおいしいビールをわざわざ高い値段で北部から取り寄せる代わりに、アインベックのブラウマイスターを呼び寄せたのです。こうしてアインベックの醸造法はミュンヘンのものとなり、ミュンヘン市民は合理的な人々だったので長い名前を短縮していきました。それが今日”ボック”と呼ばれる所以です。

 
 しかし世俗のブラウマイスター達だけがこの強くおいしいビールの醸造に習熟していたのではありません。ドイツ南部の修道士たちも、ビールによって毎日の食事に色を添えることを知っていました。特に、さらに食事に乏しい断食の時期にビールが役に立ちました。液体のものは断食のルールを破るとはされなかったためです。この味わいよく、力強い、そして含まれる成分のおかげで健康でもあるボックビールは、空腹の時期を耐え、ゴロゴロ鳴るお腹を鎮めるのに役立ったのです。

 今日シュタルクビア(シュタルク=強い、の意)のほとんどはバイエルンで造られています。バイエルンでは特に強いドッペルボックビール(ドッペル=ダブル)は伝統的に„ator”で終わる名前が多く、これには次のような歴史があります。ヨーロッパ中を30年戦争が暴れまわっていた17世紀初頭から、パウラの聖フランツの修道士たちは断食用の強いビールを造っていて、それを修道会の創始者にちなんで„Sankt-Vaters-Bier”(聖なる父のビール)と名付けました。このビールは修道士たちの他、ミュンヘン市民からもおいしいと好まれ、修道院にとってはよい商売となりましたが、市内の醸造所は面白くありません。彼らは選帝侯に訴え彼らも聖なる父のビールを醸造し売る許可を得ました。時がたつにつれ、„Sankt-Vaters-Bier”は„Salvator”と名前が変化していきました。これをヒントにツァッハル醸造所は、自らのシュタルクビアにバイエルン王ルートヴィヒ1世の名前をつけ販売する独占権利を獲得しました。他の醸造所は自分で自分のビールに名前を考えなくてはならず、それが多くのボックビールが„-ator”で終わる名前を持つことに繋がっていったのです。


シュタルクビールはどのくらい強いのか?


 上面発酵のヴァイツェン(小麦)ボックビールもあります。が、ほとんどのボック、ドッペルボックビールは下面発酵で大麦の麦芽を使って造られています。シュタルクまたボックビールという名称はドイツの法律で守られています。それによりシュタルクビールや、あたかも特に強く醸造されたと思わせるような名前のビールは、麦汁濃度が法律で定められた16%以上を含むものでなければなりません。ボックビールという名前で販売してよいのはシュタルクビールだけです。

 「麦汁濃度」は、発酵前の麦汁に含まれるたんぱく質、ビタミン、ミネラル、香り、麦芽糖といった成分の割合のことを指します。16%の麦汁濃度というのは、発酵前の麦汁1,000グラム中にそのような成分(エキス)が160グラム含まれている、ということになります。このエキスは、水、麦芽、ホップだけを使うべしとする1516年に制定されたビール純粋令に従い、自然の成分になります。(酵母は当時ほとんど知られておらず、これは空気中に漂う酵母の胞子が発酵を促したためです。後に酵母を培養し、ビールの品質を安定されることが可能になりました。)

 ボックビールは熟成に時間を必要とし、そのためこのビールを楽しむのにも十分時間をかけてほしいものです。

 ボックビールはアルコール度がおよそ7%で、ドッペルボックはそれ以上になり、麦汁濃度は最低18%でアルコール度は7.5%です。一般のフォルビアよりカロリーも高いです。ノックヘルベルクでのドッペルボック樽開きは、バイエルンでの春のシュタルクビアシーズンの正式な幕開けとなります。このシーズンは約2週間続き、5月になるとボックビールやドッペルボックがよく飲まれますが、この2つは心地よい幻想的なクリスマスの時期にも好まれます。


麦汁濃度:16%あるいはそれ以上

アルコール度:7%
種類:シュタルクビア
分類:ボック、ドッペルボックは下面発酵、ヴァイツェンボックは上面発酵
適温:8~10度
特徴:コクがある、黄金色、暗褐色
その他季節限定ビール:Maibock(5月のボック), Weihnachtsbock(クリスマスのボック), Fastenstarkbiere(断食用シュタルクビール)

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ベルリーナ・ヴァイセ-ライトで爽快なビール


 ブランデンブルク門のようにドイツの首都にぴったりなビール、ベルリーナ・ヴァイセ-小麦と大麦両方の麦芽から造られた、ピリッとした上面発酵ビールです。そのままで飲むとベルリーナ・ヴァイセは軽い酸味があり、そのためラズベリーやヤエムグラ(ドイツ語でWaldmeister)のシロップと混ぜて飲むことが多いのです。ベルリーナ・ヴァイセの”赤(ラズベリー)”または”緑(ヤエムグラ)”は、フレッシュでストローで飲むのが似合うため、特に夏によく好まれます。


300年以上の歴史


 言い伝えによると、ベルリーナ・ヴァイセは16世紀に生まれたそうです。ハノーファーの辺りで生まれた醸造家コート・ブロイハンが1526年にハンブルクの滞在から地元へ戻り、当時人気があったハンブルクのビール造りを試みましたが、失敗に終わりました。しかしそれが、ハルバーシュテッター・ブロイハン(Halberstädter Broihan)の名で流行ることとなるヴァイツェンビールが生まれるきっかけになったのです。ベルリンの醸造家たちはこのビールのレシピを独自に発達させ、さらにおいしく体にいいヴァイツェンビールを造り出しました。こうして”ベルリンのヴァイツェンビール”が生まれ、1642年にはベルリンの医師J.S.アイスホルツにより推奨されました。1680年のある文書でこのビールについての公的な記録が見られます。

 ヴァレンシュタイン将軍もこのヴァイツェンビールを評価していました。30年戦争の混乱時、ヴァイツェンビールは不足していました。ブランデンブルク辺境領の状況は厄介で、ヴァレンシュタイン将軍は部下のアルニム・フォン・ボイツェンブルク司令官に宛てた手紙の中で、「大麦のビールが飲めないからどうやって喉の渇きを潤したらよいのかわからない」と苦情を記しています。


ベルリン中が居酒屋


 19世紀のベルリン市民はビールが飲めないという悩みはありませんでした。ベルリーナ・ヴァイセはベルリン中どこにでもありました。ミュンツ通りのランドレ(Landré)、パリザーデン通りのブライトハウプト(Breithaupt)、パンコウ地区のヴィルナー(Willner)などのブルワリーでは素晴らしいビールを醸造していました。20世紀に入ってすぐにはベルリン市内の区画一つおきごとに飲食店があり、その中でも数多くのヴァイスビアバーが存在していました。キノコが土から生えてくるようにどんどん居酒屋ができていったのです。

 そういった居酒屋の主人は、ベルリーナ・ヴァイセの注ぎ方を完璧に心得た典型的なベルリンっ子でした。ビールはクルーケン(Kruken)という大きな陶器の瓶に詰められ、グラスに注ぐ時は、瓶の中の酵母がグラスに入らないよう、この瓶とグラスを同じ高さに持たないといけませんでした。ベルリーナ・ヴァイセのグラスは当時幅が広くで高さもあり、脚や持ち手がついていませんでした。またシロップを入れることも当時はまだ始まっていませんでした。当時の人々はベルリーナ・ヴァイセを、キャラウェイや穀物のシュナップス(蒸留酒)と一緒に飲んでいました。


野外も楽しめます


 今日、ベルリン市民や旅行者はベルリーナ・ヴァイセをビアガーデンや森の中のレストラン、テラス付のレストランなどで楽しんでいます。典型的なグラスは脚のついた幅の広い杯型をしていて、まずシロップをそそぎいれます。それから瓶の半分くらいのビールをリズミカルに注ぎます。残りはゆっくり入れるとしっかりとしたクリーミーな泡が立ちます。

 ベルリーナ・ヴァイセはバイエルンのヴァイスビアとは違います。ベルリーナ・ヴァイセのほんのり酸味のある味わいは、夏によく好まれる要素ですが、これは独特な醸造過程によるものです。大麦と小麦の麦芽は上面発酵酵母や乳酸菌と混ぜ合わせて発酵させます。ベルリーナ・ヴァイセは麦汁濃度が7~8%で醸造されるシャンクビアで、アルコールは2.8%と低いため、アルコールがすぐに頭に上ってくることはありません。この点が暖かい季節でも飲みやすい利点といえます。

 あともう一つ、ベルリーナ・ヴァイセの典型的な点は、昔はほとんど瓶で売っていることが多かったのですが、最近ではいろいろなバリエーションのものが缶入りで売っています。以前はベルリンのクラインガルテン(賃貸小菜園)では冬が来る前にベルリーナ・ヴァイセを何本か埋めていました。地中の適度な温度と暗さでビールがよく熟成できたのです。春になると取り出して楽しんでいました。

 

種類:シャンクビア
麦汁濃度:7~8%
アルコール度:2.8%
分類:上面発酵
色 調: 金黄色で、少し酵母の濁りのあるビール
香 り: フルーティーで小麦特有の酸味の香りと酵母の香りがほんのりします
味わい:炭酸ガスのシャープな刺激があり、酸味の中にフルーティーな味のある、軽い飲み口のビールです。「北のシャンパン」とも呼ばれます。


Deutscher Brauer-Bund e.V.

 

アルト

 アルトビールはデュッセルドルフで生まれたビールです。デュッセルドルフは西部と北部がオランダとの国境に接し、南はレーバークーゼン市があり、ケルシュビールを飲む地域との境になっています。

他の地域、たとえばミュンスンターランドなどでも作られていますが、デュッセルドルフの人々にとってはアルトビールはデュッセルドルフあるいはニーダーライン地域で作られるべきだと考えています。ニーダーライン地方で大部分のアルトビールが作られているのですが、ベルリンやフランクフルトのような大都市でも地元ビールとの気分転換に飲まれています。


古い伝統にしたがった醸造法


 Altbierのアルトとは「古い」という意味ですが、これはアルトビアが他のビールより古いという意味ではなく、醸造方法の観点から見ると他の多くのビールよりは古いということなのです。アルトビールは冷蔵技術がなく、およそドイツ全土において上面発酵酵母が使われていた頃に生まれたものです。酵母は麦芽糖をアルコールへ転換させるため15~20度の温度を必要とし、昔よく使われていた蓋のない発酵用の桶の中で、出来立てのビールの表面に泡となって浮いてきます。泡はそのまま桶から流しだしていました。この上面発酵ができるようになったことで、暖かい時期にもビール醸造ができるようになったのです。

 ピルスナーやエキスポートビールを醸造するのに使われる下面発酵の酵母は、4~9度の温度を必要とします。この酵母は発酵桶の底に沈殿します。下面発酵は常に低い温度を保つ必要があり、一般的に1873年のカール・フォン・リンデが冷蔵装置を発明してから可能になったと言われています。

 
 デュッセルドルフとニーダーライン地方のブルワリーは何世紀もの間トップレベルの上面発酵ビールを発展させてきました。そしてこの長い伝統に従った醸造方法を今日まで守り続けてきたのです。そしてデュッセルドルフとニーダーライン地方のこの琥珀色のアルトビールのファンは、地元のブルワリーに情熱的かつしばしば地元愛に満ちた感謝の気持ちを表します。アルトビールはこの地方の人々にとって古くから生き続けている、そして好んで飲まれる彼らのアイデンティティなのです。

 アルトビールは伝統的なフォルビアです。麦汁濃度は平均11.5%でアルコール濃度は4.8%です。もちろんブルワリーは消費者の要望にも応えてくれ、アルコールフリーやカロリーの低いライトなものも造っています。

 アルトビールはフレッシュな辛口をしており、8~10度で飲むのが一番おいしく感じられます。近年ドイツ全土でアルトビールは評価されていますが、やはりデュッセルドルフ市内の居酒屋やその近郊の田舎風レストランなどで特によく飲まれています。

 そういった居酒屋では店の主人が、炭酸ガスを加えたりせずに直接カウンターのビール樽から注いでくれます。アルトビールブルワリーの樽ビールの割合はこのため比較的高く、数か所のブルワリーでは60%以上となっています。たいていは20リットル樽で、冷蔵室から専用のエレベーターに乗せられてビールカウンターに運ばれます。カウンターに来たら真鍮のコックを叩いて開けるのです。

 アルトビールは細長い0.2リットルグラスやアルトビール専用の脚付グラスで飲みます。アルトビールは口当たりがよいので、居酒屋はお代りを注ぐのに大忙しです。アルトビールを飲ませる居酒屋は、人生を楽しむラインラント地方の気質そのものの明るくて陽気なムードが漂っています。アルトビールもまたこうしたこの地方の陽気で気楽な暮らしの一部となっているのです。

 

種 類: 上面発酵
分 類: フォルビア
麦汁濃度: 11.2~12.0%
アルコール度: 4.4~5.0 %
色 調: 琥珀色から濃褐色まで、光沢のある濃い色をしています。
香 り:ホップの香りが軽くするものから、力強いものまであります。また、フルーツと麦芽の香りが一緒になった芳香を持つものもあります。
味わい: 刺激があって、まろやかな麦芽の甘味の中に、渋さと苦みが調和した、スッキリ味が特徴のビールです。
飲む適温:8~10度

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